多肉植物の考察

エケベリアの「原種」と「固定種」の違いを野菜で例えると?

エケベリアを育てていると、「原種」と「固定種」という言葉を耳にすることがあります。しかし、エケベリアの場合、一般的な園芸植物や野菜とは少し事情が異なります。
そこで、今回は「野菜」を例にしながら、エケベリアの「原種」と「固定種」の違い、そしてエケベリア特有の増やし方について解説していきます。


原種とは?—— 野菜でいう「野生種」

エケベリアの「原種」とは、人の手が加わらず自然界に自生している品種のことを指します。メキシコや南米の山地、岩場などに生えているエケベリアがこれに該当します。

野菜で例えると?

「原種」を野菜にたとえるなら、野生のトマト山に自生しているニンジンのようなものです。
例えば、南米には小さな実をつける「原種のトマト」が自生しており、それを長い年月をかけて改良したものが、私たちが食べる大玉トマトやミニトマトになっています。

エケベリアの原種も同じで、自然界の厳しい環境で気の遠くなるような時間を生き抜いてきたため、形や色に一定の特徴があります。交配せずに種をまくと、親とほぼ同じ形質の株が育ちます。


固定種とは?—— 野菜でいう「伝統品種」

一方、「固定種」とは、特定の形や色、性質を維持できるように人の手で選抜・交配を重ね、安定した品種のことを指します。
原種同士の交配、または原種と他の品種を掛け合わせ、求めている特徴を持つ個体を選び続けることで作られます。

野菜で例えると?

「固定種」は、昔ながらの品種の野菜、つまり「伝統野菜」や「在来種」のようなものです。
例えば、「加賀野菜」の
金時ニンジンや、昔からある固定種のトマト、桃太郎トマトではなく、ファーストトマト等の事です

これらの野菜は、毎年同じ品種の種をまくと、ほぼ親と同じ特徴を持った野菜が収穫できます。
エケベリアも同じで、固定種の種をまくと、基本的には親と同じ形質の個体が育ちます。


とはいえ、エケベリアの固定種はほとんど見かけない

エケベリアの「固定種」という概念は、野菜ほど一般的ではありません。
というのも、エケベリアは主に葉挿しや株分けで増やすクローン苗が主流だからです。

エケベリアは種ではなくクローンで増やす

固定種の野菜は毎年種をとって育てますが、エケベリアは葉挿しや胴切りによって親と全く同じ遺伝子を持つ個体(クローン)を増やすのが一般的です。
そのため、エケベリアの園芸品種は「固定種」ではなく「栄養繁殖で増やされた選抜個体」として流通することが多いのです。

例えば、「ラウリンゼ」や「桃太郎」といった人気のエケベリアも、基本的には葉挿しや株分けで増やされており、市場に出回る株はほぼクローンです。

種をまいても同じ形にはならないことが多い

エケベリアの交配種の多くは、種から育てると親と違った形質を持つ子が生まれやすく、完全に形質が固定されることが少ないのではないでしょうか
そのため、エケベリアには「固定種」という概念は、他の園芸植物や野菜ほど定着はしていないように思います。


なぜエケベリアには固定種が少ないのか?——時間がかかる理由とは

エケベリアを育てていると、野菜や草花のように「固定種」として販売されている品種が少ないことに気づくかもしれません。
その理由のひとつは、エケベリアの形質を安定させる(固定する)には非常に長い時間がかかるからです。

今回は、エケベリアに固定種が少ない理由を詳しく解説していきます。


固定種とは?

まず、「固定種」とは何かをおさらいしましょう。

固定種とは、種から育てても親とほぼ同じ特徴を持った個体が安定して生まれる品種のことを指します。
先程説明したように野菜でいうと、昔ながらの大玉トマトや伝統的なニンジンなどが固定種にあたります。

しかし、エケベリアの場合、多くの品種は固定されておらず、葉挿しや株分けで増やされるクローン苗として流通しています。
では、なぜエケベリアは固定種として確立されにくいのでしょうか?


理由① 形質を固定するには世代交代が必要

エケベリアの形質を固定するためには、同じ特徴を持つ個体を選び、何世代も交配を繰り返す必要があります。
たとえば、新しい交配種が生まれた場合、以下のようなプロセスを経て固定種になっていきます。

  1. 交配種の第一世代(F1)を作る
    → 親株の特徴を受け継いだ種をまく
  2. 形質がバラバラな個体の中から、理想の形のものを選ぶ
    → 一部の個体だけが望ましい特徴を持つ
  3. 選抜した個体同士で交配し、次の世代を作る(F2、F3…)
    → 何世代も繰り返すことで、だんだん形質が安定する
  4. ようやく固定種として確立する(F6~F7以降)

この過程を経て初めて、「種から育てても安定した形質になる固定種」として確立されます。
しかし、この固定化のプロセスには最低でも6~7世代、つまり10年以上の時間がかかることが多いのです。


理由② エケベリアの種から育つ個体はバラつきが大きい

エケベリアは交配による遺伝のバリエーションが大きいため、種から育てた場合、親と異なる形質の個体が生まれやすい特徴があります。

例えば、同じ親同士の交配でも、

  • 葉の形が丸いもの、細長いもの
  • 色が青みがかるもの、ピンクがかるもの
  • ロゼットが広がるもの、締まるもの

といったように、兄弟株でも個体ごとに見た目が大きく変わることがよくあります。

これに対し、トマトなどの固定種は、人が何世代も選抜を繰り返して形質を統一してきたため、種をまいてもほぼ同じ形になります。
エケベリアも同じことをしようと思えば可能ですが、先述したように何年もかけて何世代も選抜しなければならず、非常に時間がかかるのです。


理由③ クローン苗で増やしたほうが簡単で確実

時間がかかる固定種の作出よりも、親とまったく同じ特徴を持つクローン苗を増やす方が効率的なため、エケベリアは葉挿しや株分けが主流になっています。

例えば、市場で人気の「ラウリンゼ」や「桃太郎」などの品種は、ほぼすべてクローン苗(栄養繁殖株)であるはずです。
葉挿しや胴切りをすれば、親株と遺伝的にまったく同じ個体を増やせるため、固定種を作る手間をかける必要がないのです。

一方、種から育てると形質がバラついてしまうため、意図しない特徴が出ることが多く、安定した品種として販売するのが難しくなります。


結論:固定種が少ないのは時間がかかるから

エケベリアの固定種が少ない理由は、形質を固定するには世代交代を繰り返す必要があり、固定化までに10年以上かかることが多いからです。
さらに、エケベリアは遺伝的なバラつきが大きいため、固定するのがより難しくなります。

そのため、エケベリアの増殖方法は、固定種として種をとるのではなく、葉挿しや株分けでクローン苗を増やす栄養繁殖が主流となっています。

もしエケベリアを種から育てる場合は、「固定されていない=どんな形になるかわからない」という点を楽しむのも、育成の醍醐味のひとつかもしれません!

まとめ

エケベリアの「原種」と「固定種」の違いを野菜に例えると、
原種 = 野生のトマトや山ニンジン(自然に生えているもの)
固定種 = 伝統野菜・固定種トマト(人の手で形質を安定させたもの)

しかし、エケベリアの園芸品種は基本的に固定種として種をまくのではなく、葉挿しや株分けでクローンとして増やされることがほとんどです。
そのため、「固定種」という概念は野菜ほど一般的ではなく、特定の個体を栄養繁殖で増やしていくのが主流となっています。

エケベリアの交配を考える際は、こうした特性を理解しながら、どの品種を掛け合わせるかを考えてみると、より理想の株を作りやすくなるのではないでしょうか

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