
——イベント当日、風間の姿はない。
だが、確かにそこには「風間の苗」がある。
多肉植物イベントの舞台裏では、一人の人間が、 食事をすることもなく、ただじっと待っている のだ。
その人の名は 風間。
イベントには行かない。だが、苗は行く。
なぜなら、ある人が仕事終わりに 風間の用意した苗を運んでくれるからである。
そして、その人と一緒に、 風間は食事をする予定 なのだ。
だが、問題が一つある。
その仕事がまだ終わらない。
■ 食事のタイミングが決まらない夜
時刻は21:40。
普通なら夕食を済ませ、そろそろくつろぐ時間帯。
しかし風間の胃袋は、完全に 空白 である。
なぜなら、苗を託す人と一緒に食事をする予定だから。
「先に食べてしまえばいいのでは?」
そう思うかもしれない。
しかし、それは ルール違反 なのだ。
相手が仕事を終えていないのに、一人で先に食べる。
そんな非情な行為はできない。
むしろ、 一緒に食べることで食事の美味しさが増す ことは、人類の長い歴史が証明している。
コロッケは1個は買ったよね。
ただ、風間は 待つ。
腹が減っても 待つ。
行きたい美味しい焼肉屋が閉店の時間を迎えてしまっても 待つ。
■ 空腹こそ、多肉植物の哲学である
この「待つ」という行為、実は 多肉植物の生態とよく似ている。
多肉植物は、水を与えすぎると根が腐る。
むしろ、水を控えることで、 根はより深く、力強く成長する。
これはまさに、人間が 試練を乗り越えて成長する構図 に似ているのではないか?
たとえば、風間の今の状態。
もし、「お腹が空いたから」といって、すぐに食事をしてしまったら、 食べることへの感謝 は生まれないかもしれない。
だが、 待つ ことで、食事の味はより深くなり、満足感も増す。
多肉植物の育て方において、 「ストレスを与えること」 が美しい姿を生み出すように、
人間もまた、 適度な空腹が、食事の美味しさを引き立てる のではないか?
そんなことを考えながら、風間は待つ。
■ 苗たちは旅立ちの時を待つ
さて、風間は明日のイベントには行かない。
だが、 風間が育てた苗は、イベントへ向かう。
準備したのは 原種を中心としたラインナップ。
イベントには、きっと多肉植物を愛する人たちが集まるだろう。
その人たちの目に、風間の育てた苗がどう映るのか。
どんな人の手に渡るのか。
風間自身は見届けることはできないが、苗たちはイベントの中で、それぞれの新しい「居場所」を見つけるだろう。
その瞬間、苗たちは 新たな環境で根を張ることになる。
そして風間は、 新たな環境で「食事」をすることになる。
そう、まだ見ぬ食事の時間を思いながら、 風間は空腹と共に、今も待っている
※22:29 追加編集 これ残業かもしれない疑惑